病理剖検輯報とデータベース |
|
日本病理剖検輯報は、1960年(1958年度剖検)を第1輯とし、毎年刊行されてきました。 日本の大学病院や認定病院・一般病院における病理解剖の記録を多数集めたもので、国際的にも類例なく、日本人の病気の実態がうきぼりにできる貴重なデータの集積となっています。 この剖検輯報の内容を、コンピュータのデータベース上におさめたものを、病理剖検輯報データベースとよんでいます。 1974年度の286施設、約2万3千剖検から始まったデータベースは、現在、2009年度分まで、1011施設、約106万剖検のデータを納めるまでに至っています。
■データベースの登録内容に関する解説 第1輯報序文(1960年刊行)日本全国で1年間に行なわれる病理解剖の例数は,ここ数年来,毎年10,000例ほど少しずつ多くなる傾向である。この全部の記録をまとめたものが欲しいというのが日本病理学会員の長年の願望であった。これはまた,ひとり病理学者だけの願望ではあるまい。死因に関して,病理解剖に基づく統計的考察の資料の要求は,臨床各科はもとより,医学の総ての分野の人々の要求だと思う。 もとより,病理解剖と,それに続く病理組織学的研究とだけによって,人間の死を決定する総ての原因が明らかにされるというのではない。死の真の原因を知ることは,生の真相を知ることと同じように困難なことだと思う。しかし,疾病の治療に従事し,やがて死に遭遇したときに,われわれはその死の真因を出来る限り追及し,これに肉迫しなければならない。この肉迫の第1の手段が病理解剖である。われわれはそこで,かくされたものを始めて白日の下に見,不確実であった推定を確実にし,或いは訂正する。諸々の臨床的観察の資料をあらためて総合的に連絡,整理して,死に至った過程の理解が,一先ず成立する。同時に,なお不明,不可解な問題と疑問が生じて,さらに進んだ細菌学的,微生物学的或いは生化学的研究等々が,そこから展開する。即ち病理解剖は,病死の原因の第一段の理解の場で有ると同時に,現実に即した医学的研究課題の提起の場である。医学の教育と研究の場で,病理解剖が第一義的に重視される所以である。これなしに,治療医学の真の進歩改善も,基礎医学各分野の独創的研究の開発も,ともに期待され難いのである。 一方,特定の病理解剖所見の集団的或いは地域的に多発があれば,これはその由って来たる所,即ち環境医学的探求の真の起点となる。いかに欧米の医学が進歩し,これらとの交流がさかんになっても,日本には独自の研究課題がある筈である。それは不断に日本人の死因を追及しながら努力を続ける者のみが知るのである。 然し,このように医学の進歩にとって不可欠の病理解剖も,こと人体に関することであるので,必ずしも常に容易に行ない得ることではない。研究に必要な資料と記録との充分な蒐集は決して容易ではない。そこで全国各大学,その他の機関で,年々行なわれる剖検例を,一覧できるような集計が切実な要求となるのである。大学の剖検例数をみても,各地各個の大学の例数は,諸外国に比して,必ずしも充分ではない。最低必要数に達し得ない事情にある大学も少なくない。この欠を補うためには,全国に散在してあるものを互いに利用し合える道を講じるしかない。全国集計は同時に疾病の全国分布を知る上の最大の資料となる。これがこの様な輯報の必要の考えられた第1の理由である。即ち,この全国一覧の輯報が利用されるべき場所は,大学に限らない。全国病院,保健関係機関等の総てに通ずるものである事は,われわれの確信する所である。 われわれの強調したい点は,この種の輯報は,1ヵ年だけでは,殆ど意味がないことである。10年20年と集積したときに,始めて研究の統計的資料として,真価を発揮し,そのときにこの仕事の真の意味が知られるだろう。それにはこれを継続事業として育成していかなければならない。 今回,文部省の研究成果刊行費の補助によって,年来の願望が達し,ここに輯報第1巻を公刊する運びにはなったが,補助の金額は決して充分ではない。また今後毎年の継続には幾多の困難が予想される。この困難を越える唯一の道は,多数の利用者を獲得することである。年々継続の購買利用者の固定層が出来て,助成金なしで出版ができるようになれば,始めて事業が安定する。 第1集1958年の輯を公刊するに当り,この計画の次第を述べた。1人でも多くの方々の御理解と御援助を得ることが出来れば,これ以上の幸いはない。
1960年3月17日
日本病理学会 総務幹事 吉 田 富 三 第52輯序(2011年刊行)第52輯、すなわち2009年度の収録状況は、登録は855施設でしたが、24施設に関しては剖検が0件のため831施設分のデータとなり、収載総数は14,120件で、昨年と比べやや減少しています。現在の世界的な剖検数減少の状況を反映しているようです。 剖検輯報発行の意義は、我が国の病理剖検情報の集約と共有であります。特に近年は、剖検を通じた個々の症例の死因に関わる病態の解明、またこれを基盤とする医療の評価という形の病理の機能が、医療の現場であらためて強く認識されています。2004年度からスタートした新しい医師研修制度において、研修医がCPCレポートを作成することが指定カリキュラムで定められていること、(財)医療機能評価機構における病院の機能評価において病理機能が重視されていることなどは、このあらわれであります。これを反映して、日本病理剖検輯報に症例を記載することの意義も改めて認識されています。 一方、患者さんの尊厳、人権およびそれに付随する諸権利の保護、また個人情報管理の観点から、本輯報の情報の掲載方法が改められてきました。本誌は基本的に疫学情報としての側面をもつため、疫学研究についての国の指針に最大限合致させるための努力が、本学会剖検情報委員会を中心にして継続されています。第45輯からは、従来掲載されていた居住地、職業の項目を削除しました。 剖検情報の電子入力は近年多くの施設によってなされるようになり、本年度は登録件数の94%を占めるまでに増加しております。これは編集過程の省力化、発行コストの削減に大きく貢献しています。しかし旧来の用紙による登録も、まだ6%あります。現在用いられている入力ソフトの改良版では、操作性や入力の機能がさらに改良されました。用紙入力をされている施設はこの機会に電子入力による登録に切り替えていただければ幸いです。 現在私どもは、剖検輯報の情報が病理学会員、医療関係者さらに国民に役立つように努力しています。また、病理学会ホームページには剖検輯報データベースの一部が公開されています。病理学会員、医療関係者、医学研究者およびその他関係各位の、本輯報への変わらぬご支援をお願いいたします。 2011年4月1日 社団法人日本病理学会 理事長 青 笹 克 之 剖検情報委員長 根 本 則 道 Copyright 2011 The Japanese Society of Pathology. All Rights Reserved. |